大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)5833号 判決 1953年11月27日

主文

被告人鍵本伝一に対する原判決及び第一審判決中同被告人に関する部分を破棄する。

同被告人を懲役六月に処する。

但し、同被告人に対し、二年間右懲役刑の執行を猶予する。

第一審における訴訟費用中証人李初培、同中野敏彦、同高見美千子、同長沖繁一、及び同津田正夫に支給した分は被告人鍵本伝一、当審相被告人鍵本丸人、第一審相被告人鍵本二三及び鍵本修三の連帯負担とし、証人前田道雄及び同中本圭市に支給した分は被告人鍵本伝一及び第一審相被告人森徳一の連帯負担とする。

被告人鍵本伝一に対する本件公訴事実中第一審判決第五及び第七の各食糧管理法違反の事実について同被告人を免訴する。

被告人鍵本丸人に対し本件上告を棄却する。

理由

被告人両名弁護人名川保男、同岩村辰次郎、同岩村隆弘の上告趣意は末尾添附の別紙記載のとおりである。

同第一点について。

しかし、所論憲法違反の主張は原審において控訴趣意として主張せられず、原審の判断を受けていない事項を主張するものであるから、適法な上告理由に当らない。なお、被告人鍵本丸人に対する本件銃砲等所持禁止令違反の公訴事実(第一審判決第四の事実)は、同被告人が昭和二四年四月上旬頃から同年一一月九日迄の間呉市阿賀町字大入、駿賀産業株式会社水飴工場倉庫内において刃渡り約三五糎の日本刀及び刃渡り約六七糎の日本刀各一振を所持していたというのであるが、当裁判所が職権を以って調査すると、これより先同被告人は昭和二四年四月三日呉市阿賀町冠崎、冠崎青年会館附近で日本刀二振(刃渡り約一尺八寸のもの一振、刃渡り約一尺三寸のもの一振)を所持していたという事実について、銃砲等所持禁止令違反事件として公訴の提起を受け、昭和二四年四月二七日広島地方裁判所呉支部は、右公訴事実を認定し、同被告人に対し、懲役三月(但し、二年間執行猶予)に処する旨の判決を言渡し、同被告人は右判決に対し控訴を申立てたが、同年一一月一二日広島高等裁判所は右控訴を棄却する旨の判決を言渡し、之に対する上告の申立なくここに右第一審判決は確定するに至ったものである。そこで、所論の如く昭和二四年四月上旬頃から同年一一月九日迄の間の本件日本刀二振の継続的所持の状態がその一部分において、先に確定判決を受けた昭和二四年四月三日における日本刀二振の所持と相い重複し前者の所持の中に後者の所持が含まれているかどうか、換言すれば両事実の間に公訴事実乃至訴因の同一性があるかどうかについて審究すると、本件日本刀二振中短刀は刃渡り約三五糎即ち約一尺五寸長刀は刃渡り約六七糎即ち約二尺二寸一分であるが、確定判決における日本刀二振は前示の如く短刀は刃渡り約一尺三寸、長刀は刃渡り約一尺八寸であって、いずれもその長さにおいて相当の差異があるばかりでなく、本件における第一審公判廷において、確定判決における日本刀二振の所持の事実に関する被告人の司法警察員に対する供述調書各一通について適法な証拠調が施行された直後、被告人は裁判官の質問に対し、「その刀は海に捨てました。発見されるまでに海に捨てました。」と供述し、次いで裁判官が、その刀は本件で現在押収されている刀とは別の物かと重ねて念を押して質問したのに対し、「別のものです。」と明確に供述しており、更に、確定判決における日本刀二振の所持は、昭和二四年四月三日被告人の友人山岡某が冠崎青年会館附近において隣村の青年と喧嘩し、日本刀で斬られたとの通報を受けるや、被告人において日本刀二振を携帯して、右青年会館に赴いた時の所持が審判の対象となったものであるのに反し、本件日本刀二振の所持は、長期に亘り駿賀産業株式会社水飴工場倉庫内に隠匿していた所持が審判の対象となっているものであるから、以上二つの事実の間に、所論の如き公訴事実の同一性を認めることができない。従ってまた訴因の同一性も認められないといわなければならない。されば、被告人鍵本丸人に対する先の銃砲等所持禁止令違反被告事件の確定判決の既判力が同被告人に対する本件銃砲等所持禁止令違反の公訴事実に及ぶという論旨はその理由がないといわなければならない。

同第二点(追加上告趣意を含む)について。

しかし、所論は刑訴四一一条一号乃至三号所定の事由を主張するものであるから、上告適法の理由とならない。

同第三点について。

しかし、所論判例違反の主張は、原審において控訴趣意として主張せられず原審の判断を受けていない事項を主張するものであるから、適法な上告理由に当らない。なお、所論は本件被告人等の暴行脅迫の所為は、不法監禁罪の手段としてなされたものであるから、暴行脅迫罪は当然に不法監禁罪に吸収せられ、不法監禁の一罪のみが成立すべきものであって、不法監禁罪の他に更に暴行脅迫罪の成立する余地がない旨主張するのであるが、第一審判決の摘示事実及びその挙示する証拠に拠れば、被告人等の所論暴行脅迫の行為は偶々尹民孫の監禁中又は尹民孫及び張海竜の監禁中に行われたものではあるけれども、右各行為は、尹民孫、張海竜等の逃亡を防ぐ手段としてなされた如き不法監禁の状態を維持存続させるために行われたものではないのであって、右両名の被告人等に対してなした詐欺的欺瞞的言動に憤慨、憤激の余り、行われたものであることが認められるから、たとい、被告人等の暴行脅迫の行為が不法監禁の機会になされたからといって、所論の如く、不法監禁のために、その手段としてなされたものということはできない。論旨摘録の大審院判例は、不法監禁自体の手段としてなされた脅迫は不法監禁罪に包摂せられ、別に脅迫罪を構成しないという趣旨の判例であるから、本件に適切でなく、従って、本件第一審判決並びに之を支持した原判決には、所論の如き判例違反の点は存しない。

なお、被告人鍵本丸人に対する本件被告事件については、刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同被告人に対しては、同四一四条三九六条により本件上告を棄却する。

さて被告人鍵本伝一に対する本件被告事件について、更に職権を以って、調査すると、同被告人に対する本件公訴事実中主文第五項記載の事実については、原判決後昭和二七年四月二八日政令第一一七号大赦令一条八六号により大赦があったので、刑訴四一一条五号により同被告人に対する原判決及び第一審判決中同被告人に関する部分を破棄し、同四一三条但書により自ら判決をすることとし、同四一四条、三三七条三号に則り、主文第五項記載のとおり右事実について同被告人に対し免訴の言渡をする。そして、その余の事実を法律に照らすと、被告人鍵本伝一の判示第一の不法監禁の所為は刑法二二〇条一項六〇条に、判示第二の(一)の暴行の所為は同法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項に、判示第二の(二)の脅迫の所為は暴力行為等処罰に関する法律一条一項、刑法二二二条、罰金等臨時措置法三条一項に各該当するところ、判示第二の(一)及び(二)の各所為に対しては、その所定刑中懲役刑を選択し、右各所為と判示第一の所為とは刑法五四条一項前段の関係が存するので、所定刑中最も重い不法監禁罪の刑を以って処断すべく、その刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、但し、情状刑の執行を猶予するのを相当と認め、同二五条を適用し、本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し訴訟費用について、刑訴一八一条に則り主文第四項記載のとおり負担させることとする。

よって、主文の通り判決する。

右は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例